パンドラの箱開く

文字多し、写真少なし。ご容赦を。
アウトプットトランスのない真空管アンプに興味がわいてフェイスブックに書き込んだら、自宅から比較的近い所のオーディオショップを紹介された。3週間ほど前の話。
しばらくしてそのオーディオショップへフラリと立ち寄った。この店を訪れるのは、じつは2回目。
1回目は30年ほど前のこと。新規開店した話を耳にして行った。
ワンフロアの店内はまだガランとしていて、小さなディナウディオがかなり大きな音で鳴っていたのを覚えている。
それから30年近く行っていないから、どう考えても自分は「客」とは言えない。
あのころはブックシェルフの、小さいが高価なスピーカーの走りだった。でも自分は15インチウーハーでなければいけないと信じていたから、自分の主義には合わない店だと思い込んだのだろう。
それはよいとして「すみません、OTLアンプが聴きたくて来ました」とあいさつした。
 ★OTL=アウトプットトランスレス
社長は気安く中へ招き入れてくれた。

d0032222_23081629.jpg




30年前とは大きく変わって、店は足の踏み場もないほどオーディオ機器であふれていた。当たり前だ。30年も経てば。
あいにくOTLアンプは修理中だった。カウンターポイントの白くて大きなモノラルアンプが2台あったので、たぶんこれだろうと思った。
まぁ、OTLアンプはさておいてこれを聴きなさい。とでも言いたげに社長が機械を操作して大きな音を出し始めた。
後で分かったことだが、スピーカーはタンノイのカンタベリーだった。上にスーパーツイーターが載っていた。プリは社長設計の管球式。パワーアンプは業務用の6L6GCプッシュプル、出力150W/chというハイパワー。
正直、ぶったまげた。
タンノイといえば Made in England でクラシックの権化みたいなスピーカーじゃないか。
それがどうだろう。JBLも逃げ出すくらいの元気でパンチ力のある音がする。音がグイグイ前に出てくる。低域がズシンと部屋を揺るがす。スピーカーのかなり手前にプレーヤーがいる錯覚がする。聴いているうちにOTLアンプのことはどうでもよくなった。
ホントは30分程度でお邪魔するつもりが、1時間半もいた。音に聴き惚れたことと、もうひとつは社長がおしゃべり好きだったからだ。
話からして、オリジナル設計の管球プリアンプがどうも曲者だ。
完全オーダーメイドで、今も数台のバックオーダーを抱えているとニヤリと笑った。
音場の切替スイッチがついていて、それひとつでジャズのライブ会場にいるかのような音になったり、クラシックのコンサートホール中央にいるような音になったりする。
どこをどう工夫して逆転の発想で設計したようなことを長々と話してくれたが、電気オンチの自分に分かるはずもない。

家に帰って自分のシステムで店と同じ曲を流してみた。
全然違う。国会議員じゃないけれど、違うだろーっ! と叫びたく・・・なりはしなかった。
うちのB&W N801は明るくない。元気がない。音が前に出てこない。「ない」の三重苦。

d0032222_23212306.jpg

その後、新しくターンテーブルが届いたりして、しばらくは気が紛れた。
帰りしなに「聴きたければ貸し出します」と社長が言っていたのを思い出した。
買う買わないは別にして、あの音が自分の家で聴けるならぜひ聴いてみたい。
そう思ってまた店へ足を運んだ。家から10キロくらいだから車ですぐだ。
今度は元職場の先輩も一緒に行くことになった。先輩はこの店からアンプを買っている。自分と違って「お客様」だ。
別に頼んじゃいない。いい音でビックリしましたよとメールしたら、おれも聴きたいと話に乗ってきたのだ。
タンノイ・アーデン使いの先輩も感心していた。「アーデンより出るなぁ」と。いや、全然違いますから。

帰り際に貸してくれるようお願いすると、「貸し出し」ではなく、社長自らアンプを持参してセッティングするという。
じゃぁ明日来てくださいと、話はトントン拍子で決まった。

翌日10時半ごろ社長がワゴンに器材を積んでやってきた。
プリと業務用パワー、デンオンのアナログプレーヤーまで載っている。
まず今の音を聴きたいというので、CDでジャズを流す。音量は控えめ。
少し聴いただけで「これはパワーアンプが原因ですね」と社長が言い切った。

d0032222_23442205.jpg

ROTEL RB-1592はことしの5月に買い替えたばかりなんだけどなー。
知恵袋でN-801を鳴らせるアンプはこれだ―と紹介してもらって、それを信じて購入したのだった。
もちろん海外製の超弩級アンプならもっと鳴るだろうけど、われわれにはCPも大事なのだ。
たしかに前のRB-1582と比べると低域の力強さは増えたが、価格ほどの差はないと思った。

はじめに社長設計オリジナルプリをつないだ。
良くなったが、それほどでもない。わざわざLNP-2Lをこれに替えるまでもないかな。
次にパワーを替えた。業務用の6L6GC150W/chアンプだ。
トーゼンだが一変した。激変した。
プリにはリヤパネルに1つツマミがあり、これを回すと低音の出方が変わってくる。インピーダンスを調整していると言ってたような気がする。
パイプオルガンの16Hzが入ったCDをかけると障子がガタガタと震え、部屋全体が揺れるような錯覚を覚えた。
2階では娘がまだ寝ていたので、思わず「やめて!」とストップをかけたくらいだ。
ほかの音楽をかけてもらう。ボーカル、ギター、ピアノ、ジャズ、そして自分が持っているCDも。
それはもう夢の世界のようだった。あの陰気でおとなしそうなN-801にこんな元気とパワーがあったとは。
面白いように音が前に出てくるし、低域の厚みといったらもう笑うしかないくらいの、そう、映画館のレベルだ。

しかし困った。業務用パワーアンプは売りものではない。これは店の備品で非売品。
それに手に入れたとしても、置き場がないくらいにデカい(写真はない)。
すると社長が「これ、使えるんじゃないですか?」と指差すその先にEL34ppが・・・。

d0032222_00052391.jpg

即座に「無理ですよぉ」と返事した。
数年前にオーバーホールして真空管を全部替えたが、LE8Tにつないでみたら低域の力がからっきしなくて、もう3年ばかり冬眠させていた(写真はオーバーホール直後にLE8Tをつないでいたときのもの)。
20センチフルレンジさえドライブできないのに、動かないと評判の15インチウーハーが鳴るわけがない。そう思ってこのEL34ppは一度もN-801につないだことはなかった。試しにつないでみるかという気さえ起きなかった。
全然気分は乗らなかったけれど、社長が言うなら仕方ない。
これは30年以上も前に月刊Stereoに掲載されたものを見て作りました。ヨメがまだ独身で東京出張したとき、秋葉原でコンデンサーを買ってきてもらいました・・・などと当時の思い出を語りながら渋々つないでみた。プリは社長オリジナルだ。

松田優作的 なんじゃいこりゃぁ! の心境になった。
社長に言わせると、音質は業務用150Wより上品でよいとのこと。ドライブ力はそれほどでもないが、十分使えますよと太鼓判を押してもらった。
もし、このEL34ppが良くなければ、KT88ppあたりを探せばいいとアドバイスを受けていた。もう見つけなくてよくなった。お宝は足元に転がっていたのだ。

d0032222_00252026.jpg

社長が帰ってからLNP-2LとこのEL34ppをつないだ。
社長設計オリジナルプリのような低域こそ出ないが、プリのトーンコントロールでLOWを+6に持ち上げたらRB-1592よりも分厚い低音になった。レビンソンのトーンコントロールは特性が自然で、使い勝手はよい。

d0032222_00304392.jpg

時間が経つと低域がさらに出てきたので、+4に落とした。これが俗にいう「ウォーミングアップ」か? 初の経験だ。
曲によっては+2でも十分な量の低音が出る。+4が妥当、+2は控えめ、+6は過剰。

d0032222_00360255.jpg

いやぁ、目からウロコが何枚も落ちた。
もう使いみちがなくて、オークションに出そうと思っていたEL34ppにこんな力が潜んでいたとは・・・。
これからずっと使い続けようと思っていたRB-1952はどうだ。悲しいな。

d0032222_00430803.jpg

社長設計オリジナルプリには名前がついている。「パンドラ」だそうだ。
自分もその箱を開けてしまった。


Commented by k5 at 2017-10-15 10:37 x
こんにちは。
パンドラの箱から最後に出てくるのは「希望」ですが、最近出てきた緑色の希望は絶望でした。
EL34はtamaさんの希望になるのか。♪(・ω・=)nnn~
Commented by salgadoujp at 2017-10-15 20:57
ちょんまげ大名の独り言:
「さんざんワシのことを暗い性格だとか元気がないだとか...そこにある管球アンプに繋いで欲しいって長いことつぶやいていたのに...
冷たいイシのアンプばかり繋いでワシの悪口言って...それでハンドルネームが『たまちゃん』ってどういうことなんだいっ!」
Commented by tama_photo at 2017-10-15 21:33
> k5さん
ちょっとした主義・主張の違いで野党がさらに分裂。もうぐちゃぐちゃという感じで国民には非常に分かりづらくなっていますね。
真空管は不思議です。知恵袋に相談事をアップしたとき、真空管を使えなんてだれ一人言いませんでした。いかに実践のない机上論者、オーディオ評論横取り人間が多いか分かりました。自分で経験してないのにエラそうなこと書くな!と私は声を大にして言いたいです。
Commented by tama_photo at 2017-10-15 21:38
> salgadoujpさん
tamaはいずれ「球」に帰ってくるからtamaなんです。
それにしても長い迷路でした。
Commented by テンジン at 2017-10-15 22:24 x
パンドラの箱は何年も前に開いていて色々ぐちゃぐちゃになってたら床に置いてあったトランスと球につまずいたところでk5さん仰る最後の希望が出てきたというところかな?
そのパンドラを持ってきてくれた社長さんには感謝しなければいけませんね
何しろ「足元の幸せ」を気づかせてくれたのだから・・・
Commented by tama_photo at 2017-10-16 00:26
> テンジンさん
このアンプはたしか上杉佳郎氏が設計したもので、月刊ステレオに実体配線図つきで掲載されました。電気オンチに実体配線図はとてもありがたく、なんとか作ることができました。
じつはこれが2台目。同じものを2台作ったんですヨ。初代は真空管7本が全部表に出るよう(本来は表に4本、裏に3本)勝手にアレンジしたんです。電源スイッチもボリュームもフロントパネルに持ってきました。そんなことをすると、素子の脚長が足りなくなるんですね。四苦八苦して組んだはいいが、スイッチを入れても音が出ず、いきつけのオーディオショップへ駆け込むと思い切り笑われました。配線の色分けもせずに色はほとんど緑だらけ。もう芝生みたいでした。
その反省に立って2台目は設計に忠実に従いました。アクセサリー電源だけは付け加えましたが・・・。1台目はどうしても欲しいという人(友達の友達)が現れ、あげました。
30年前、部品代だけで7万円くらいでした。
Commented by Rifle at 2017-10-16 09:12 x
下手な石アンプよりも確り設計された玉アンプの方が音は良いでしょう。動作電圧が高い分、駆動力は石より高いですから。
拙者はここ10年程は業務用アンプばかりで、一般向けや玉のアンプは使った事無いんで、これも「机上の空論」ですけどねー。(汗)
評論家・マニアは視野が狭くて「自分が正しい」と思い込んでる人種なので、回路知識以外は役に立たないでしょうねぇ。
Commented by tama_photo at 2017-10-16 12:02
> Rifleさん
RB-1592はN-801を鳴らせる数少ないアンプとして認知されているのですよ。B&Wが社内試験用に使っていたとか、そういう都市伝説がまことしやかにささやかれていました。
何度も書きますが、本当の本当の本当にビックリしました。あのダメアンプのEL34ppがこんな力を秘めていたとは。それに気づかなかったことが申し訳なくて、EL34様を拝んでいます。
毎日、音楽を聴くのが楽しくなりました。
Commented by k5 at 2017-10-16 16:31 x
こんにちは。
真空管アンプはその姿かたちから、ノスタルジックで暖かみがあり柔らかい音というイメージですが、そんな事は無いと思います。
オクターブ、EAR、ユニゾンリサーチなどは、真空管を色々ある素子のなかのひとつとして使って、バリバリの現代オーディオアンプをつくり相当イイ音らしいです。(すいません、「らしい」で・・)
ただ、真空管アンプの弱点は、たとえWEの300Bを使おうともダメトランスであったら音もダメになってしまうという、トランスに依存している事ではと思っております。まぁ、WE300Bを使う人がショボいトランスは使わないでしょうけど。
tamaさんアンプが好結果なのは、ラックスのトランスが効いているのではと、密かにみておるのですが。(-д☆)キラッ
Commented by tama_photo at 2017-10-16 19:36
> k5さん
見た目、小ぶりなトランスで、ショップSの店長は「これはいかん」と否定的。ショップOの店長はマジマジとトランスを見て「4キロかと思ったけど5キロならいい」と言いました。意味不明ですが・・・。
上杉さん、ばんざーい!
by tama_photo | 2017-10-15 01:12 | Music & Audio | Comments(10)